今、この瞬間に意識をつなぎとめておく効果的な方法として、古今東西さまざまな覚者が呼吸の観察をすすめていますが、今回は呼吸の観察より簡単なのに効果的な別の方法をご紹介します。
少しでも瞑想の経験がある人なら、呼吸に意識を集中してみたことが一度はあると思います。
しかし、あまり心を静めることに慣れないうちは、意識が散漫になりがちで、呼吸のことなどすぐに忘れて、気が付いた時には何か考え事に没頭していた、というのが常です。
もし、呼吸の観察の経験がなければ、ためしにやってみてください。ここで書いていることがよくわかると思います。
ゴエンカさんのヴィパッサナー瞑想10日間コースでは、はじめの3日半が呼吸の観察、それ以降は身体の感覚の観察をするのですが、私が話した参加者の多くが、感覚の観察よりも呼吸の観察の方が集中するのが難しいと言っています。
瞑想中でさえ難しい呼吸の観察を、日常生活の中でするのはさらに難しいのは言うまでもありません。
さて、今回ご紹介する方法は、瞑想中はもちろん、日常生活をしながらでもわりと簡単に意識をフォーカスすることができます。
その方法とは、「音」です。
そんなことか、と思われた方もいるかもしれませんが、これは私が体験的に効果を実感していることです。
私がこれに気が付いたのは、瞑想中に虫の鳴く音がやけに際立って聞こえていることにはじめて気が付いたときです。
まぶたの裏にほんのり感じる明るさ、身体の感覚、呼吸、そして空っぽの私とすべての空間全体に浸透して、どこまでも鳴り響く虫の音。
これがその時私が感じていた、世界のすべてです。
心が静まり、思考から解放されると、自分の中が空っぽになったように感じて、在るのはただ、五感から立ち現われてくる感覚だけ、という実にシンプルな世界にいることに気がつきます。
私たちの日常は圧倒的な思考の勢いに飲み込まれているせいで、こうしたとてもシンプルな「今、この瞬間」の多くを見過ごしています。
その中でも、わりと見過ごされがちなのが耳から入ってくる「音」なのです。
何か考え事をしていたり、何かに集中している人に声をかけてみてもまったく気がつかないという場面を思い出してみてください。
また、寝る時にいつもは気にならない時計の秒針の音が妙に気になってしまい眠れなくなったり、集中して耳を澄ますと、それまで聞こえなかったかすかな小さな音も聞こえてきたという経験を誰もがしているはずです。
このように、私たちはいつの間にか、聞こえているはずの大部分の音をシャットアウトして生きているのです。
心が静まり、思考から解放されている状態であれば、周囲の音が自然と際立って聞こえてくるようになるのですが、今回のポイントはこれを逆手にとって、まず、周囲の音を意識的に聞くようにしてみるのです。
呼吸の観察ができているときは思考が止まっているのと同じで、私の経験では、耳から入ってくる音に意識を集中しているときも思考は止まっています。
実際にためしてみたらわかりやすいと思います。
耳から入ってくる音に意識をフォーカスすることは、日常生活をしながらでもそれほど難しいことではありません。
いつでもふと気が付いたときに、そこにある「音」を意識的に聴いてみてください。
その時、これは何の音だ、といった判断は必要ありません。
ただ、「音」を聴くのです。
そして、できるかぎり長い時間、意識的に「音」を聴き続けてみてください。
「音」に意識を向けているかぎり、あなたは今に在ります。
遅かれ早かれ、自分の頭の中が空っぽな瞬間に気が付くことができるはずです。
思考から解放されて「今に在る」状態は、常に静寂に包まれています。
たとえ、その場がどんなにうるさく、騒がしかったとしても、静寂を感じることができます。
矛盾しているように思われるかもしれませんが、「音」を意識的に聴くことは、この静寂を感じやすくなるという側面もあると私は感じています。
静寂を実感するようになると、いかに自分が心の中の雑音にかき乱されていたか、ということがわかるようになります。
「今、この瞬間」は、いたってシンプルです。
世界を複雑なものにしているのは、私たちの思考なのです。
五感に意識的になることで「今に在る」方法として、こちらの記事もおすすめです。
自然の「音」はとても効果的です。
身近な自然の「音」を録音してみました。どうぞご利用ください。
コメント
古い記事へのコメント失礼します。先日、公民館で行われている「虫の観察会」にたまたま家族4人で出席したのですが、ここで言われていることと全く同じ体験をしました。2年も前にこのことに気づかれていらっしゃったのですね。
いっちーさん
古い記事へのコメント歓迎です。
私が書いていることを体験的に理解している方がいるのは、嬉しいです。
虫の観察会。楽しげな会ですね。
我が家にはいろんな虫がいるので、毎日が虫の観察会です(笑)
(笑)
羨ましいです!